PM memorandum

Product Managementにまつわる記事をポストします。twitter: @kyosu_ke

「課題の選択」を構成する3つのステップ

これはなにか

企画における5つのフェーズ」のフェーズ1「課題の選択」の進め方をまとめたものである。 kyosu-ke.hatenadiary.jp

自分が普段どのように企画を立てているのかを、一度客観的に見てみようと思い、書くことにした。

今回もバリバリのPMの皆様からすれば、至極当たり前のことしか書いていないため、そういった方のお役には立てそうにない。 一方、PMの考えに興味がある他職種の方にとっては、企画の初期フェーズの輪郭がはっきりするかもしれない。

文中には、職種・業界特有の抽象的な概念や横文字も出てくるが、極力具体例を上げてイメージしやすいようにまとめる。

課題の選択の3つのステップ

課題の選択とは、「解くべき問を見つけること」である。

企画の5フェーズの中で最も重要なフェーズであり、「解決したときの伸びしろが最もある課題はなにか」を突き詰めるフェーズである。

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  1. 分解する
  2. 評価する
  3. 深掘りする

以降、この1~3について「とあるECサイトの売上をxxxx円増やす」という具体例を用いて、詳述する。

1. 分解する

目標を達成するために、課題を小さく分けていくことである。

分解の方法は2パターンある。これらは順番に行っていく。

1-1. ロジックツリー分解

大きな目標をより小さなブロックに、樹形図状に分けていくである。 例えば「ECサイトの売上をxxxx円増やす」ためには、下記のような式に分解ができる。

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このように、売上を増やすという大きな目標を、樹形図にそって、より小さく解きやすそうなブロックに分解する手法を、ロジックツリーと呼ぶ。

1-2. セグメント分解

樹形図状に分解したブロックをさらに、特定の切り口で区分けすることである。

例えば、ECサイトの例のうち、購入者数の部分をセグメント分解してみる。 切り口は「年齢」、「性別」、「購入点数」、「購入金額」「登録後の経過日数」など様々なものが考えられる。

仮に購入点数で考えると、下記のような区分ができる。

  • 過去1点もない … 未経験者層
  • 1年の購入点数: 0点 … 休眠・離脱層
  • 1年の購入点数:1〜3点 … ライト層
  • 1年の購入点数:4〜8点 … ミドル層
  • 1年の購入点数:8点〜 … ヘビー層

また、区分けする際には、なるべくMECE(モレなくダブりなく)に考えることが重要である。

2. 評価する

「分解する」で区分けしたセグメントのうち、どこが最もポテンシャルがあるかを見極める。その際の評価基準として2つの観点で考える。

ポテンシャル x フィジビリティ

  • ポテンシャル: どこに手を打つと最終的な目標への影響が最大化するのか
  • フィジビリティ: 現実的に実現の可能性はあるか

つまり、伸びしろが大きくて実際に伸ばせそうなところを選ぶ、ことが重要である。 また、ポテンシャル評価の方法は2パターンあり、どちらか扱いやすいほうを選ぶ。

2-1. 自サービス内ポテンシャル

自分のサービス内の数字を比較し、ポテンシャルを図る考え方である。

例えば、購入経験のないユーザー数と全体のユーザー数を比べると、未経験者率は80%もあり、購入者増加の伸びしろが多いと判断する場合がこれに当たる。

この判断には、データをどう解釈するか、という主観が含まれるため、人によって結論は異なる。

2-2. 対競合ポテンシャル

他サービスとの比較で、ポテンシャルを図る考え方だ。

他社サービスのセグメント分析の結果が手に入る場合、自社のセグメントと他社のセグメントの数値を比較すると、差分によりポテンシャルの把握ができる。

3. 深掘りする

評価を通じて発見した、見込みのあるセグメントに関して、深掘りをして課題を決定する。

深掘りの方法は3パターンある。いずれかの手法で「解くべき問」が見つかればよい。 また、最終的な「解くべき問」の形は「〇〇するにはどうしたらよいか?」という形式になる。

3-1. ファネル分析

特定のアクションに至るまでの、各ステップの突破率を分析する手法である。

例えば、先のECサイトを例で未購入者層が大きく、0⇢1への購入転換にポテンシャルがあると判断し、これを深掘りする場合、ユーザーがサービスにアクセスしてから購入するまでの大きな流れは下記のようになる。

  • サービスにアクセスする
  • 欲しい商品を見つける
  • 商品情報を理解する
  • カートに入れるボタンをクリックする
  • 会員登録をする
  • 配送先を入力する
  • クレジットカードの登録をする
  • 購入する

このステップごとに、何人のユーザーがアクションを行ったかのデータを収集し、突破率が悪いところをあぶり出す。

例えば、会員登録のステップで突破率が悪いことがわかったとすると、「解くべき問」は「未購入者が新規購入転換する際、会員登録ステップでの離脱を防ぐにはどうしたらよいか?」という問になる。

3-2. 相関分析

2つの異なる指標の相関関係を調べる手法である。

相関関係にある2つの指標は一方が増えれば、他方も増えるため、見込みのあるセグメントの特定のアクションと相関関係にある指標を見つけ、その指標の増加を「解くべき問」とする考え方である。

例えば、「未購入者の購入転換率」と「商品の閲覧数」に相関関係があれば、「解くべき問」は「未購入者により多くの商品を見てもらうにはどうしたらよいか?」という問になる。

しかし、相関分析を行う際は注意が必要であり、相関が見られるからと言って、かならずそこに因果関係があるわけでない。 これを見誤り、「相関の罠」にハマってしまうと、成果の出ない問の立て方となってしまうため注意が必要だ。

「相関の罠」については別の機会に詳述したい。

3-3. インサイト分析

ユーザーインタビューやアンケートなどの手法を使ってインサイト(洞察)を導き、そこから「解くべき問」を抽出する方法である。

ECサイトの例で説明する。 実際に未購入者の会員に対して、メールアンケートで回答を得たり、対面でユーザーインタビューを行い、下記のようにユーザーが最も課題に感じている部分を抽出する。

  • 商品が探しにくい
  • このECサイトに対する安心感がない
  • 会員登録で入力する項目が多すぎる
  • 配送料が高い

仮に、このECサイトに対する安心感がない、という点が一番の課題だった場合は、「未購入者がこのECサイトに対して安心感を持てるようになるにはどうしたらよいか?」という問になる。

実際のユーザーから得られる情報は貴重で、ファネル分析や相関分析と合わせて実施すると「解くべき問」がシャープになっていく。

まとめ

「課題の選択」のフェーズでは下記のフローで行われていく。

  1. 分解する
  2. 評価する
  3. 深掘りする

PMそれぞれで企画の立て方、作り方は異なるため、ここで上げたのは、ほんの一例である。 ここで取り上げたフローを踏まずに、アイデアベースで鋭い企画を出し、成果を上げるPMもいるので、画一的である必要はない。

どんな方法で企画を出すにせよ、成果が最大になる「解くべき問を見つけること」が肝要である。

次回は、「解くべき問」を実際に解いていく、「解法の選択」についてポストする。

PMに必要な13の能力とフェーズ別の重要度

これはなにか

これはPMの能力として重要だが定義が曖昧な、PMの能力を類型化して整理したものである。

過去に、採用や能力開発の相談を通じて「PMに必要な能力とは何か」について考える機会がたびたびあり、まとめてあったものを、再編集した。 検討が甘い部分はあるが、PMの採用に携わる方、能力開発を考えている方、またはこれからPMを目指す方に、少しでも役立つと嬉しい。

本記事で取り扱うスコープ

本記事では、なるべく具体的でテクニカルな部分に着目してリストアップしている。

ソフトスキルやマネジメントスキルは職種を通じてある程度共通する要素であるため、本記事のスコープ外とする。 個人的には、テクニカルなスキルよりもソフトスキルのほうが重要な局面が多いと考えるが、それはまた別の機会で扱おうと思う。

具体的な能力

具体的な能力については下記13の能力を4つの枠組みで整理したい。

f:id:kyosu-ke:20180709005042j:plain ※チャートのスケールはイメージです

調査・分析系

  • 1)課題発見力
  • 2)分解・分析力
  • 3) ユーザー調査力

着想・発想系

  • 4)解決提案力
  • 5)他社サービス把握力
  • 6)技術トレンド把握力

ビジネス・折衝系

  • 7)外部交渉力
  • 8)PL設計力

計画・実行系

  • 9)戦略立案力
  • 10)開発プロセス・技術理解力
  • 11)プロジェクト管理力
  • 12)調整力
  • 13)執着力

上図は、これらの能力を、「企画における5つのフェーズ」の各フェーズごとに重要度でマッピングしたものである。 kyosu-ke.hatenadiary.jp

以下、各系統別に能力を詳述する。

調査・分析系

ここで取り扱う能力は『1. 課題の選択』や『5. 価値の検証』のフェーズで必要となることが多い。

この系統には下記の能力が属する。

1)課題発見力

  • 量的・質的情報から課題を発見する力
  • データを見て課題を発見できる力
  • ユーザビリティテストからの課題発見できる力も含む

2)分解・分析力

  • 発見した課題を解決できるサイズのイシューまで分解する力
  • 分析を行う上での軸の整理や比較対象の整理ができる力

3) ユーザー調査力

着想・発想系

ここで取り扱う能力は『2. 解法の選択』『3. 製品の実装』『4. 製品の伝達』のフェーズで必要となることが多い。

この系統には下記の能力が属する。

4)解決提案力

  • 課題に対して論理的に解決案を出せる力
  • イデア力も含む

5)他社サービス把握力

6)技術トレンド把握力

  • 業界の技術トレンドを把握し、自社・自プロダクトが進むべき方向に取り入れる力

ビジネス・折衝系

ここで取り扱う能力は『2. 解法の選択』のフェーズで必要となることが多い。

この系統には下記の能力が属する。

7)外部交渉力

  • 外部パートナーとの交渉を適切に進める力

8)PL設計力

  • ユニットエコノミクスが成立するように事業の収支を設計できる力

計画・実行系

ここで取り扱う能力は『3. 製品の実装』『4. 製品の伝達』のフェーズで必要となることが多い。

この系統には下記の能力が属する。

9)戦略立案力

  • 自社・競合の状況、時系列、トレンドなど複数の情報をもとに、勝ち筋を描き、目標達成のための計画を立てる力

10)開発プロセス・技術理解力

  • デザインを含む広義の開発・技術に関する理解の度合い

11)プロジェクト管理力

  • プロジェクトリスクの洗い出しと対処を行い、予定通りプロジェクトを進める力

12)調整力

  • 組織やチームの中で達成に必要な調整をやりきる力
  • リソース調整や優先度調整などコミュニケーションを必要とする複雑な調整が対象

13)執着力

  • 目標達成に対して粘り強く取り組む力
  • 計画頓挫時のリカバリープランを素早く立て、実行できるかも含む

まとめ

以上、PMに必要な13の能力と企画フェーズごとの重要度をまとめた。

企画のフェーズによって、PMが駆使する能力は異なっており、PMはフェーズごとに役回り立ち回りを変えながらプロジェクトを進めていく必要がある。 一部の能力が他職種によってカバーされているチームの場合や、必要な能力が自身に足りない場合は、他者の協力を得ることで能力を補完し、ミッションを完遂していくことが求められる。

PdMの業務内容と企画における5つのフェーズ

これはなにか

Product Manager(以下、PdM)とはどんな仕事か?についての私見である。

最近、複数の知人から上記を問われることが続いたので、そういったときにポンと渡せるまとめを作ろうと思ったことがきっかけだ。

読者はPM未経験者を想定しているため、すごく初歩的で基本的なことにとどまる。 よって現場でゴリゴリ活躍しているPdM諸兄姉にとっては、得るものが少ないと思う。

「どんな仕事か?」これを説明するために「目的(=ミッション)」と「手段(=業務内容)」にわけて話したい。

PdMのミッションは?

「ユーザーの課題を特定し、解決策を実行し、KPI目標を達成すること」である。 新規プロダクトの立ち上げ、既存プロダクトへの機能追加、UI/UXの改善、CRMなど、PdMが関わる分野は多岐にわたるが基本はどれも同じである。

このミッションを遂行するために、PdMは関係各所と連携しながら業務を進める、プロジェクトのハブ、プロジェクトリードの役割を務める。

PdMの具体的な業務内容は?

ではPdMとは具体的になにをするのか? PdMの業務は企画の進行フェーズに沿って下記のように分類できる。 ただし、開発組織の体制、業界によっては、エンジニアが担う領域も存在する。

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企画における5つの進行フェーズ

企画を進行フェーズで区切ると以下の5つに分けられる。

  • 1.課題の選択
  • 2.解法の選択
  • 3.製品の実装
  • 4.製品の伝達
  • 5.価値の検証

抽象度が高いため、説明とともに、具体例を上げる。

1.課題の選択

ユーザーが抱える複数の課題のうち、どの課題を解決するかを決めるフェーズである。

このフェーズが一番重要だ。ここを間違えると、いくら頑張っても最終的に成果がでないという非常に残念な結果になる。

例えば、あるECサービスで購入者率(※)を増やすために施策を考えるとする。

※購入者率 = 一日の訪問者に占める、購入者の割合

そのときにユーザーが抱えうる課題は、

  • そのサービスを知らない
  • そのサービスにたどり着けない
  • 商品を探しにくい
  • 商品を比較検討しにくい
  • 希望する支払い方法がない

といった具合に、パッと思い浮かぶだけでも複数ある。 その中で、どの課題が「解決できるサイズの課題」で「解決したときに一番インパクトが大きいか」という観点で考え、解くべき課題を見極めるフェーズである。

ここでの具体的な業務は以下である。

  • ユーザーインタビュー
  • 公開統計情報を用いた調査結果の収集
  • 他サービスの調査
  • 仮設の立案
  • 行動ログデータの分析
  • 主要KPIの分析(推移・比較・割合)

2.解法の選択

「1.課題の選択」で決めた解くべき課題に対して、どうやって解決するかを考えるフェーズである。

ここでは、他サービスでの事例の引き出しや、発想の転換が必要となってくる。

例えば、「商品の比較検討がしにくく、離脱してしまう」を解くべき課題と定めたとする。 そのときの解法は、下記のように複数存在する。

  • 商品一覧の画面の情報量を増やす
  • 比較検討機能をつける
  • お気に入り画面を比較しやすいUIに変更する
  • そもそも自サービス内で比較検討をしなくても良い状態を作る

その中で、最も費用対効果がよく、速やかに、より多くのユーザーに向けた解決策になる解法を選択する。 このときの選択の観点は、コスト(工数), リーチ(対象ユーザーの広さ), インパクト(解ける度合い)だ。

ここでの具体的な業務は以下である。

  • 他サービス等での類似事例の調査
  • サービス企画立案
  • 企画のフィジビリティ調査
  • 要求仕様の整理
  • スケジュール・マイルストーン・ロードマップ策定
  • 最低限の仕様への絞り込み

3.製品の実装

「2.解法の選択」で決めた解法を実装していくフェーズである。

PMは全体の進行を管理し、最終的にローンチまで漕ぎつけることに責任を持つ。

エンジニアリング経験や開発プロジェクトマネジメント経験のあるPMはここで強みを発揮する。

ここでの具体的な業務は以下である。

  • 要求仕様の共有と認識合わせ
  • プロジェクト進行管理
  • プロジェクト進行上の課題発見と解決
  • チーム外のステークホルダーとの連携と期待値調整

4.製品の伝達

「3.製品の実装」で開発したプロダクトや機能をユーザーに届けるフェーズである。

例えば、比較検討機能を新規機能として追加したとする。 それだけではユーザーは新機能の存在にも気づかないし、ましてや利用しない。

そこで、アプリ内の通知機能などで、ユーザーに新機能が追加されたことを伝え、「比較検討機能を利用するとクーポン付与」など、利用の機会を作る。

ものづくりが好きなPdMはこのフェーズを軽視することがままあるが、製品の実装と同等かそれ以上に重要である。 また、チームによってはPdMではなくマーケティング担当が実行する場合もある。

このフェーズにおける具体的な業務は以下である。

  • アプリ内通知による機能告知
  • 各種SNS運用による機能告知
  • インセンティブの活用による機能利用促進

5.価値の検証

「1.課題の選択」で選定した課題が解決され、その結果としてKPI目標が達成できているかを確認するフェーズである。

例えば、新規実装した、比較検討機能の結果を検証する場合、 何人がPUSH通知を開封し、アプリ内の告知文を読み、その中の何人が利用し、その利用率は何%であったのかを分析する。 また、最終的に、KPIである「購入率」が上がったかどうかを検証する。

ここでの具体的な業務は以下である。

  • 検証する項目と検証の軸の選定
  • リリース直後の速報分析
  • 行動ログを用いた各種指標の分析
  • 分析チームとの連携

まとめ

PMの業務は下記の5フェーズを通じて、「ユーザーの課題を特定し、解決策を実行し、KPI目標を達成する」ことと言える。

  • 1.課題の選択
  • 2.解法の選択
  • 3.製品の実装
  • 4.製品の伝達
  • 5.価値の検証

またそれは言い換えると、プロダクトを通じて、自らの仮説を世に問い、検証する作業でもある。

プロダクトを科学し、仮説と検証を繰り返していくPdM業は、とても面白くやりがいのある仕事である。